佐佐木定綱歌集 月を食う

久々の歌集購入。名前のとおりで佐佐木幸綱の二男だそうです、佐佐木定綱。wikiで調べたら源頼朝の忠臣とか出てきた、三谷幸喜の新大河ドラマにも出そうか。

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歌人の方もwikiに記事がある。1986年生まれだそうです。まあ大変読みやすい歌集でした…ってのはこの際褒め言葉ではなさそう。かつても一つのブログで「最近の短歌って言葉遊びの妙を競ってる…」みたいに、あまり肯定的でないふんいきで紹介した。こちら「月を食う」は、いろいろ言葉遊びや時事詠、喩の遠近法など多用されてるが、それよりなにより父親幸綱の短歌に似ちゃうな、もちろん悪い意味で。

杭のごとき熱燗の酒のみ下す暴力(ゲバルト)といい諾(イエス)といいて
ハイパントあげ走りゆく吾の前青きジャージの敵いるばかり

全共闘の時代、性愛の時代。そこに幸綱はいてでも泰樹は佐世保に行ったし逮捕されたし岸上は首括ったしと、でも幸綱だってかすれ出る青春をたしかに歌い、胸を広げてわたしも聞いた。だからやっぱり幸綱的な無骨で硬い名詞・単語の過剰さや、食や飲酒へのこだわりなど見えるとすこし萎えたか。

そうね、歌集中には食に関する粘膜的な嗜好や嫌悪などを極端にあつかった作品が多くあり、それが偏執だけでない性愛や自虐の隠喩とわかってもでもゲロや唾液を歌にするか?と困惑はあった。食うことは恥ずかしいこと醜いことですとわたしは思う。定綱も短歌で食うことの下品さ不気味さ気味悪さを記し、だったらこの露悪は読者への媚びかとわたしには思えた。開高健色川武大が小説やエッセイに記した食を制してやろうとするほどのこだわりなどが、偽悪的でなんか食いものを粗末に扱って提示してる定綱さんの短歌を昇華するヒントにならないか?

もちろんすてきな短歌もたくさん見つかりました、そのまま貼ります。余裕があるとき一首一首にオマージュ捧げたいです。

歌集「月を食う」
魚は机を濡らす
残したい思いはないけど月・金に出せないゴミが溜まってゆく部屋
イスラム」モ「同性愛者」モ「中韓」モ「女」モ貶セ金ハ儲カル
引きちぎる夜
いったい告白以降の愛とはなんだよかすかな呼吸を聴いてる
セブンスター
人の世のどろどろ魚介つけ麺を特盛りにして苦しんでいる
焼けてもいない夜景
誘われてデートに行って過ちを犯したような顔のイージス
ゴミ
本質を飲み込んでおり現象を積み上げており個包装菓子
笑ってくれ
もし意思があるなら読まれたき人へ羽ばたいてゆけ空はただ青
おまえは生きているうち一度でも空を見たかと問う鶏肉に
眠れ
雨。きらう生き物である。高架下から埋まりゆく駐輪場
幾万のうすき孤独をかき集め明るき夜を眠れ東京

 

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月蝕の意味ではないです