感想文 奥泉光 死神の棋譜

たった今読了。朝日新聞読書欄にも紹介されてて、でもおれほとんど将棋知らないし大丈夫かなと、購入躊躇してたんだが杞憂でした、中編というべきボリュームだがほぼ半日でウキウキワクワクなまま読み終えました。この辺とても奥泉作品のアドバンテージで本格推理やミステリ作品ではダウトな展開も、純文学で芥川賞の作者だから大目に見ましょう、広義の幻想文学だしね…となってしまい、きちんとミステリとして評価されない。「シューマンの指」もあの蛇足でただのサイコドラマに落ち着いちゃってとても残念だった。

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こちらもでもご都合主義が過ぎたり、あと接着剤(佐野洋命名、知らぬはず同士の登場人物が男女の仲で利害関係としちゃう)でゲンナリもあり、本格ミステリとしては弱いが、でも筆力ストーリーテリングできちんと読ませてるのはさすがです。将棋に関してはまったく無知でも全然読めますし、幾度か描かれる幻想の中での「龍将棋」戦はこれはもう対戦ゲームだしね。切羽詰まって駒をウーンと盤に押し付けたら駒が盤の下に押し込まれて立体将棋が始まるってなんて、もうそれこそゲームのステージが昇る感じでそこに奇怪な駒がゾロゾロだし、モンスター対戦ゲームが始まっちゃうし、そちらを逆に目指すとものすごいお金の匂いがありそうですけど。

主人公が恋人を繋ぎとめるために、失踪事件を解決しようと構築した仮説をまんまとトリックの種に使われたというドジっ子ミスディレクションは(接着剤のせいもあり)巧いと思った。でも序章で天谷氏が主人公北沢に20数年前の十合棋士の失踪を語った意味って何なのだろう。夏尾が天谷氏に×××だとして天谷氏が北沢に過去を告げる必然が(それをいうとこの小説がなくなっちゃうけど)あるのかなあ。そのへんも「シューマンの指」と同じ弱さかなと、読み終え感じてる。ともあれすてきな読書体験でした。

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